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2022年11月24日

指導・教育とパワハラの違いはどこに?裁判例から考える

■東京地裁 平成30年6月29日判決(ウエストロー2018WLJPCA06298018)内容の概要 

 ・営業活動を行う社員として問題があった

 「原告は,被告会社の他の新入社員と異なり,5箇月間にわたる研修を受講しても,商品の基本的な知識や必要最低限度のビジネスマナーを習得することができず,顧客からクレームを受けたり不審者扱いされたりする一方,自らの抱える問題点を正しく理解しようとしないなど,被告会社で渉外営業活動に従事する資質,能力の点で著しく劣っていたといわざるを得ず,渉外営業活動を担当する社員として,早晩,普通解雇される蓋然性が高い状況にあった。」としています。

 

 ・ではどのような行為が許容されるのか?

 「被告会社の他の新入社員に対するよりも一定程度厳しい態度をもって上記のような原告に対する注意,指導に当たったり,ロールプレイ試験に合格するまでは原告の渉外営業活動を制限したりしていたことがあるとしても,そのことのみをもって,パワハラに該当する違法行為があったと評価することはできない。」としています。

 つまり営業活動に問題がある社員に対して、①他の社員よりも厳しい態度をとること、②一定の基準を満たすまで営業活動を制限することは必ずしもパワハラとはいえないとしています。

 

 ・では違法なパワハラになるのはどのような行為でしょうか?

 ①人間関係の切り離し

 「同一事務室内ではあるが,渉外営業社員の班のある4人机からも,被告Y2の部長席からも遠く離れた,パーテーションにより仕切られた一角に原告の座席のみを移動させ,B局長もこれを承認していたことは,上記のように渉外営業活動に従事する資質,能力に著しく劣っていた原告にとっては,ほとんど実効性の期待し難い措置であって,自主学習に専念し得る環境などと評価することはできず,むしろ原告を職場の問題職員として他の社員から隔離し,人間関係の切り離しを図ろうとする措置であったと評価されてもやむを得ない。」としています。

 つまり座席を話したことは指導・教育の効果を上げるものとは考えられず、人間関係の切り離しを行うものであると判断しています。

 

 ②意に反して退職する旨の文書を提出させること

 「また,上記1で認定した事実によれば,被告Y2が,仮に当初は原告の責任感を養うためなどの目的に出たものであり,また,原告の発言それ自体を契機とするものであったにせよ,真に退職する意思など有していなかった原告をして,ロールプレイ試験に合格することができなかった場合は退職する旨の文書を作成させ,これをB局長に提出させ,B局長もこれを何ら異議なく受領していたことは,上記のような問題を抱えていた原告に対する指導,教育として全く効果を期待することのできない無用の措置であったというだけではなく,社会通念上許容し得る業務上の指導の範囲を超えた,新入社員である原告を萎縮させる悪影響をもたらすだけの著しく不適切な措置であったと評価せざるを得ない。」としています。

 つまり特定の試験に合格しなかったら退職する旨の文書を提出させることも教育の効果は全く期待できずパワハラにあたるとしています。

 

 ③退職させるための嫌がらせ

 「さらに,被告Y2において,いくら指導,教育をしても成長の見られない原告に立腹したことがあるにせよ,職場で公然と原告を侮辱したり,ロールプレイ試験についに合格することのできなかった原告に対し,原告の退職を前提として関係書類を破棄させたり,原告が本件郵便局にとって必要のない人物であることを確認する旨の職場アンケートの実施を示唆してまで被告会社を退職するよう迫ったり,職場の忘年会への出席をしないように働きかけたり,原告を寄生虫に例えて,いわば給料泥棒呼ばわりしたりするなど,原告を罵倒し続け,その退職を強要したことは,原告に対する誹謗中傷というにとどまらず,原告の個人としての尊厳を著しく傷つけるものであったと評価せざるを得ない。」としています。

 ここでは、(a)職場で公然と侮辱すること、(b)退職を前提として関係書類を破棄させること、(c)必要のない人物であることのアンケート、(d)忘年会に出席させない、(e)寄生虫に例えて給料泥棒呼ばわりすることは個人としての尊厳を傷つけるもので許されないとしています。

 

 ・違法とまでは言えない行為

「これに対し,上記1で認定した事実によれば,平成25年12月以降,原告に対する所持品検査や業務命令の発令が繰り返された直接の原因が原告自身の常軌を逸した奇異な言動や著しく反抗的な態度にあったことは明らかであるから,これらの行為それ自体については違法であるとまでは評価することはできない。」としています。

 つまり所持品検査や業務命令が繰り返されたとしてもそれが社員の異常な行動によるものである場合は必ずしも違法とはならないとしています。

 

■コメント

 ある行為が厳しい指導・教育なのか、違法なパワハラなのかの判断は難しい場合もあるでしょうが、指導・教育の効果があるのか、又は退職に向けた嫌がらせなのかが一定の判断基準となるようです。

 もっとも、社員と信頼関係を築くためにコミュニケーションを図ることでこうした状況になることを回避できるのではないでしょうか。

 

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水野健司特許法律事務所

弁護士 水野 健司

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