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2022年10月20日

[医療]肺がんの発見が約11箇月遅れたことにより慰謝料400万円の損害を認めた裁判例

<タイトル>

[医療]肺がんの発見が約11箇月遅れたことにより慰謝料400万円の損害を認めた裁判例

<記事の内容>

■事案の概要

 本件は医療センターの個別健康診断で平成14年9月の胸部XP写真で異常陰影が現れていたのにこれを見落とし、平成15年8月の発見となったため、がんを切除する手術が約11箇月遅れたという事案です。

■東京地裁平成18年4月26日判決(ウエストロー:2006WLJPCA04260011)の内容

 本件では当初から異常陰影を見落としたことに争いはなく、医師は原告に対し責任を認めたことが前提となっています。

 この点裁判所は誰がみても異常陰影が明らかだとまではいえないともしていますが、この過失により約11箇月の遅れが発生したとしています。

 そして、この裁判で特に問題となったのは、損害をどのように算定するかという点です。

 まず約11箇月の遅れがあったため、右肺下葉のがんが大きくなったとはいえ、下葉全体を切除する手術自体は変わらなかったとしています。つまり約11箇月遅れたからといって手術の内容がより重大なものに変わったわけではないということになります。

 もっとも裁判所はステージ分類で進行していることを考慮して、5年後生存率が約30パーセント低下したと判断しました。

 また主婦であった原告が再発や死の恐怖から免れることができないことも同じであり、慰謝料損害の金額についてはどのように算定すべきか前例がないとしています。

 結局、本件では医師が謝罪していることなどを総合的にみて、400万円が相当であると結論付けしました。

■コメント

 肺がんの発見が遅れ5年後生存率が約30%低下した場合と比較しながら400万円としたのは興味深いところです。

 約11箇月の遅れが発生したことを損害としてどのように算定するかについて、死亡の場合やB型肝炎と比較し、一応の結論を出しています。また裁判所は今後原告が死亡した場合に追加の慰謝料が請求できるかについても意見を述べており、本件見落とし時(過失)と死亡との因果関係が認められるのであれば可能であるとしつつも、5年後生存率が約30%低下したということを前提とすれば追加の慰謝料請求が認められる可能性は低いであろうと述べています。その上でその点も含めての慰謝料算定ということになるとしています。

 医療訴訟では過失が認められても因果関係が否定される事案は多く、その際に慰謝料を算定する上で参考になる裁判例だといえます。

 

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水野健司特許法律事務所

弁護士 水野 健司

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