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2023年12月15日

フィリピンで前婚を無効としなくても日本人男性の認知が認められた審判例

■はじめに

 フィリピン人女性との間に子どもが生まれた場合、そのフィリピン人女性はさまざまな理由で他の男性と戸籍上結婚していることがあり、後から日本人男性が認知をしたくても嫡出推定のためすぐには認知できない場合があります。

 フィリピン家族法では離婚が認められていないためフィリピンの裁判所で婚姻無効の裁判を起こすことになりますが、これには時間も費用も膨大にかかることになります。

 そこでフィリピンでの婚姻の効果は残したままで血縁関係のある日本人男性が子どもを認知することができないかが問題になります。

■裁判所の判断

 嫡出推定の働かない日本人男性がフィリピン人女性との間の子どもを認知しようとする場合、まず前提として前婚との関係で嫡出推定の効果を消す必要があります。これはフィリピン人女性との関係ではフィリピン家族法の適用になり嫡出推定を消すためには、条件の厳しい嫡出否認の裁判か遡って無効となる婚姻無効を裁判で確定させる必要があることになります。これはいずれもフィリピンでの裁判手続となり日本人にとっては大変厳しい条件となってしまいます。

 そこで東京家裁令和4年1月19日審判(判例タイムズ1508号 250頁)では、「フィリピン法においては,フィリピン家族法172条に規定される方法によって認められる親子関係の存在を前提に,父母の婚姻中に懐胎又は出生した子が嫡出子とされているところ,申立人は,日本及びフィリピンのいずれにおいても父が存在しないとして出生届が提出されている。そして,その他,申立人と前夫との間の親子関係を証明するに足りるフィリピン家族法172条に規定される証拠はない。したがって,申立人と前夫との間の親子関係が認められないことになるから,同法170条による嫡出否認の訴えによるまでもなく,申立人と前夫との間の嫡出親子関係を認めることはできないというべきである。」として、出生届に前婚の夫の氏名がないことから前婚の嫡出推定の効果は生じないとしました。

■コメント

 日本で働くフィリピン人女性については実態のない婚姻を前提とした在留資格目的で滞在しているケースもあり、このような女性が日本人男性との間で妊娠したり、子どもが生まれたりすることも珍しいことではありません。

 血縁上の父親が日本人であれば、相続や日本国籍を取得するという法律的な効果も生じるため、この審判の取り扱いはフィリピン人女性の子どもを認知する上で有利に働くものと考えらえれます。

 

令和5年12月15日

水野健司特許法律事務所

弁護士 水野健司

電話(052)218-6790

 

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