[医療]高齢者に抗凝固剤を継続し、脳出血を発症したケースで医師の過失が認められた事例
■はじめに
高齢者に抗凝固剤を継続し、脳出血を発症したケースで医師の過失が認められた事例
■事案の概要
本件は当時74歳の男性がヘルニア手術の術前検査で心原性脳塞栓症(心房内でできた血栓が脳血管にまで流れて、脳塞栓を起こすもの)を発症する可能性があることから、その予防のためにワーファリンを服用する必要があると説明されたため、被告クリニックでワーファリンを処方してもらい、平成21年10月から平成22年2月まで1日2錠を服用し続け、2月に死亡したというものです。
■裁判所の判断
裁判所は、ワーファリンの添付文書には、その用法・用量欄に、ワーファリンは凝固能検査の検査値に基づいて投与量を決定し、凝固能管理を十分に行いつつ使用する薬剤であること、初回投与量を一日一回経口投与した後、数日間かけて凝固能検査で目標治療域に入るように用量を調節し、維持投与量を決定すること、ワーファリンに対する感受性は個体差が大きく同一個人でも変化することがあるため、定期的に凝固能検査を行い、維持投与量を必要に応じて調節することが記載され、用法・用量に関する使用上の注意として、凝固能検査等に基づき投与量を決定し、治療域を逸脱しないように血液凝固能管理を十分に行いつつ使用すべきことが記載されており、使用上の注意欄には、重大な副作用として、出血(脳出血等の臓器内出血、粘膜出血、皮下出血等)を生じることがあると記載されているほか、高齢者については、用量に留意し慎重に投与すべきことが記載されていることを指摘しました。
そして本件では被告医師が凝固能検査を一切実施していなかったことを義務違反であるとして、脳出血による死亡との因果関係を肯定しました。
■コメント
本件ではワーファリンを4か月近く投与し続けていたにも関わらず、凝固能検査を一度も実施していなかったことから医師の過失を認めました。添付文書の指示に明らかに違反していたことや脳出血との因果関係が比較的わかりやすい形で現れていたものと考えられます。
実際の裁判では、遺族からみれば過失や因果関係は明らかに見えても、裁判所がそのまま認めることは極めて珍しいといえますが、本事例は過失の内容を組み立てる上で参考になるものと考えられます。
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野健司
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