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2024年04月26日

歩合給、固定残業代など諸手当が残業代の支払いとして認められない場合(名古屋の弁護士)

<目次>

■1.はじめに

■2.歩合給から割増賃金を控除する賃金規定による支払いが、労基法37条の割増賃金を支払ったとはいえないとした事例(最高裁令和2年3月30日判決 判タ 1476号49頁)

■3.割増賃金と調整手当を加えた一定額の手当を通常の労働時間の賃金と区別して支払う賃金体系につき、労基法37条の割増賃金を支払ったとは言えないとした事例(最高裁令和5年3月10日判決 判タ 1510号150頁)

■4.固定残業代について労基法37条の割増賃金の支払いとして認められた事例(名古屋高裁令和5年9月28日判決 ウエストロー2023WLJPCA09286005)

■5.まとめ

 

<内容>

■1. はじめに

 トラック運転手、タクシー運転手は労働時間の管理が難しく、デジタルタコメーターを使ったとしても実際よりも長時間の残業をしたとして残業代を請求する事態が起きます。これを回避するため会社側は、一定の金額を固定残業代として支払い、無駄な残業を抑制しようとします。また売上に連動させた歩合給を採用することで、非効率な残業をさせないようにインセンティブを与えることも考えられます。このような歩合給や固定残業代は通常の労働時間の賃金との区別が不明確になりがちで、労働基準法37条の割増賃金が適切に支払われたかの疑義が生じやすくなります。

 ここでは、近時の最高裁の判断を踏まえてどのようにすれば適切に固定残業代を設定できるのかについて検討します。

 

■2. 歩合給から割増賃金を控除する賃金規定による支払いが、労基法37条の割増賃金を支払ったとはいえないとした事例(最高裁令和2年3月30日判 決判タ 1476号49頁)

 (2-1)事案の概要

 タクシー運転手の賃金について売上高に応じて定まる金額から残業代を控除した金額を歩合給として支給する賃金規定による支払いが、労働基準法37条の割増賃金を支払ったといえるかが争われました。

 (2-2)裁判所の判断

 まず、なぜ会社が残業代を支払わなければならないのかについて、「労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものである」こと確認しました。

 端的にいえば残業を抑制して労働者の権利を保障することにあるといえるでしょう。

 そして残業代(割増賃金)の計算については、「割増賃金の算定方法は,労働基準法37条等に具体的に定められているが,労働基準法37条は,労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され,使用者が,労働契約に基づき,労働基準法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではない」として計算方法が特定されるものでないことを確認しています。

 また会社が残業代(割増賃金)を支払ったと言えるか否かは「割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である」として、通常の労働時間の賃金部分と残業代(割増賃金)の部分とが判別できなければならないとしました。

 そして判別できるか否かの判断にあたっては、「当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ,当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは,当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべき」であるとし、「その判断に際しては,当該手当の名称や算定方法だけでなく」、「当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである。」としました。

 つまり、その手当が時間外労働等の対価として支払われていることを手当の名称や計算といった形式的な面だけでなく、賃金体系における位置づけといった実質面からも検討する必要があるとしています。

 本件の賃金規定については、「その実質において,出来高払制の下で元来は歩合給(1)として支払うことが予定されている賃金を,時間外労働等がある場合には,その一部につき名目のみを割増金に置き換えて支払うこととするものというべきである(このことは,歩合給対応部分の割増金のほか,同じく対象額Aから控除される基本給対応部分の割増金についても同様である。)。そうすると,本件賃金規則における割増金は,その一部に時間外労働等に対する対価として支払われるものが含まれているとしても,通常の労働時間の賃金である歩合給(1)として支払われるべき部分を相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。そして,割増金として支払われる賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかは明らかでないから,本件賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなる。」としました。

 結論として「したがって,被上告人の上告人らに対する割増金の支払により,労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたということはできない。」としました。 

(2-3)コメント

本件では、歩合給の一部を割増賃金に割り当てるという形式的な操作により、残業代(割増賃金)を支払ったことにする意図で、賃金規定が作成されたものと考えられますが、この判例では賃金体系全体から時間外労働等の対価が支払われたといえるかを問題にしています。本件の賃金規定によると、歩合給が出来高払いという通常の労働時間に対する賃金であるはずのものを名目上残業代(割増賃金)に置き換えることにより、残業代(割増賃金)を支払ったことにするという実質面を重視してこのような賃金規定による支払いは労働基準法37条の割増賃金を潜脱することになるという判断でした。

 

■3. 割増賃金と調整手当を加えた一定額の手当を通常の労働時間の賃金と区別して支払う賃金体系につき労基法37条の割増賃金を支払ったとは言えないとした事例(最高裁令和5年3月10日判決 判タ 1510号150頁)

 (3-1)事案の概要

 被上告人(会社)は、労働基準監督署から指摘を受けたことを契機として一定額の本件割増賃金を時間外労働等の賃金として支給する賃金規定を導入しましたが、これが労基法37条の割増賃金として認められるかが問題となりました。

 (3-2)裁判所の判断

 まず、ある手当が労基法37条の割増賃金といえるかについて裁判所は、「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる。そして、使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。

  雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである」として令和2年最高裁判決等の内容を確認しました。

 本件割増賃金について裁判所は、「新給与体系の下においては、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される本件割増賃金の総額のうち、基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条等に定められた方法により算定された額が本件時間外手当の額となり、その余の額が調整手当の額となるから、本件時間外手当と調整手当とは、前者の額が定まることにより当然に後者の額が定まるという関係にあり、両者が区別されていることについては、本件割増賃金の内訳として計算上区別された数額に、それぞれ名称が付されているという以上の意味を見いだすことができない。」としました。

 そのうえで「そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かを問題とすべきこととなる。」として、名目上判別できるだけではなく、実質的に対価性があるかを検討すべきものとしました。

 そして本件の事情として、「労働基準監督署から適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことを契機として新給与体系を導入するに当たり、賃金総額の算定については従前の取扱いを継続する一方で、旧給与体系の下において自身が通常の労働時間の賃金と位置付けていた基本歩合給の相当部分を新たに調整手当として支給するものとしたということができる。そうすると、旧給与体系の下においては、基本給及び基本歩合給のみが通常の労働時間の賃金であったとしても、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、新給与体系の下における基本給等及び調整手当の合計に相当する額と大きく変わらない水準、具体的には1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる」として給与体系の変更は名目的なものにすぎなかったことを指摘しました。

 そして新給与体系の本件割増賃金について、「新給与体系の下においては、基本給等のみが通常の労働時間の賃金であり本件割増賃金は時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、前記2(3)の19か月間を通じ、1時間当たり平均約840円となり、旧給与体系の下における水準から大きく減少することとなる。」として時間当たりの基礎賃金が大きく減少することになることを指摘し、さらに「上記19か月間を通じ、1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることからすれば、本件割増賃金が時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたこととなる。」として、かなり長時間に相当する割増賃金が支払われていることの不自然なことを指摘しました。

 また会社からの説明についても「新給与体系の導入に当たり、被上告人から上告人を含む労働者に対しては、基本給の増額や調整手当の導入等に関する一応の説明がされたにとどまり、基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い上記のような変化が生ずることについて、十分な説明がされたともうかがわれない。」としました。

 これらから結論として、「新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。」ことから、「そして、前記事実関係等を総合しても、本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなるから、被上告人の上告人に対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。」としました。

 つまり、本件割増賃金は労基法37条の割増賃金として認められないとしました。

 (3-3) 裁判官草野耕一の補足意見

 本件には草野裁判官が固定残業代について興味深い意見を述べています。

 「私は法廷意見に賛同するものであるが、そこで述べられている理由に関して、あるいは、次のような疑念を抱く者がいるかもしれない。すなわち、労働者が、使用者の個別の了解を得ることなく時間外労働等を行い得る労働環境においては、実際の時間外労働等の時間数にかかわらず一定額の割増賃金を支払う雇用契約上の仕組み(以下、本補足意見において、これを「固定残業代制度」といい、そこで支払われる金員ないしはその金額のことを「固定残業代」という。)を利用することには経済合理性があり、かかる制度の下にあっては、実際の時間外労働等の総量が合理的な範囲内に抑制されており、かつ、全体として適正な水準の賃金が支払われていると認め得るのであれば、当該固定残業代の支払を労働基準法37条の割増賃金(以下、本補足意見においては「法定割増賃金」という。)の支払として認めてもよいのではないか、という疑念である。そこで、以下、この疑念に対する私の見解を詳らかとし、もって法廷意見に対する私の補足意見としたい(なお、法定割増賃金の支払対象となる労働には時間外労働、休日労働及び深夜労働の三つがあるが、その間の異同は本件事案の争点とは直接関係がないので、以下においては、記述をより簡単なものとするべく、法定割増賃金の対象となる労働は時間外労働だけであるものとして論を進める。)。」とされて、「労働基準法37条は、時間外労働を時間内労働に比して割高な役務とするものである。その結果、同条に時間外労働を抑制する機能があることは疑いをいれないが、同時に、同条があることによって、労働者が使用者の個別の了解を得ずとも時間外労働を行い得る労働環境においては、労働者の限界生産性が時間外労働に対する対価を下回ってもなお、労働者が更に時間外労働を行おうとする事態が生じやすいことも否めないところであり(以下、かかる事態の下でなされる時間外労働を「非生産的な時間外労働」という。)、この事態を回避するために使用者が固定残業代制度を利用しようとすることは、経済合理的な行動として理解し得る。」とされています。

 もっとも「しかしながら、労働基準法37条は強行法規であるから、たとえ固定残業代制度が導入された場合であっても、労働者が雇用契約に基づいて行った時間外労働の総時間に対する法定割増賃金の金額が固定残業代を超過するときには、使用者は超過分を労働者に対して支払わなければならない。このことを踏まえて労働者のインセンティブを考慮するならば、前記の労働環境の下において、非生産的な時間外労働に対する賃金の発生をできるだけ抑止するという目的のために固定残業代制度を機能させるためには、固定残業代を(1時間当たりの)法定割増賃金の額で除して得られる時間数(以下、この時間数を「想定残業時間」という。)を、非生産的な時間外労働には至らないと使用者が認識する時間外労働の総時間数(以下、これを「生産的残業時間」という。)よりもある程度長いものとした上で、実際の時間外労働として見込まれる時間が想定残業時間を下回るようにすることが必要となる(なお、ここにいう生産的残業時間は、あくまでも使用者の認識する数値であって、この数値が訴訟上の立証の対象となることは想定されない。)。もっとも、この場合には、使用者にとって、想定残業時間が生産的残業時間を上回ることによる損失が生ずることにもなるため、使用者が、固定残業代制度を導入する機会などに、通常の労働時間に対する賃金の水準をある程度抑制しようとすることも、経済合理的な行動として理解し得るところであり、このこと自体をもって、労働基準法37条の趣旨を潜脱するものであると評価することは相当でない。」として、固定残業代を導入することの意義を認めた上で、設定の仕方により有効になることを示しました(なお、ここでは一部のみを抜粋しました。)。

 (3-4)コメント

 本件では定額の一部を残業代(割増賃金)とする新給与体系が、実質的には労基法37条の割増賃金を潜脱する意図のものであるとして、認められませんでした。この判決を前提とすると、固定残業代という仕組みが認められないかのような印象を持つかもしれませんが、草野裁判官の補足意見にあるように固定残業代自体は経済合理性がある制度であるということができるため、固定残業代自体に問題があるのではなく、その運用に問題があるということでした。

 いずれにしても、賃金体系全体をみて、通常の労働時間に対する賃金と時間外労働等の賃金が判別できることだけでなく、時間外労働等の対価として支払われる割増賃金が不均衡でないか、割増賃金を潜脱する意図が認められるかなど実質的に検討する必要があるといえそうです。

 

■4.固定残業代について労基法37条の割増賃金の支払いとして認められた事例(名古屋高裁令和5年9月28日判決 ウエストロー2023WLJPCA09286005)

 (4-1)問題の所在

 固定残業代を採用した賃金体系について労基法37条の割増賃金の支払いとして認められるかが争いになりました。

 (4-2)裁判所の判断

 まず本件の月60時間の固定残業代として13万円が支給されている点について、「年間所定労働日数は255日であり、1日の所定労働時間は7時間30分であることが認められる(したがって、1か月あたりの平均労働時間は255×7.5÷12=159.375時間となる。)から、原判決別紙3の2枚目以降の右側欄外に記載のとおり、残業時給は2119円と認められるところ、60時間の残業代は12万7140円となり、固定残業代の金額としても相当額と認められる。」としました。

 そして労基法37条の支給といえるかの判断について、「使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり、上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである」ことを確認し、本件については「一審被告は、一審原告と労働契約を締結した際に、一審原告に対し、月額給与の内訳について、基本給17万円、役職手当10万円、60時間分の固定残業手当13万円との説明をし、その内容が記載されている労働条件通知書を交付したのであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とに判別することは可能である。」とし、「月額40万円の給与が支払われていたことを併せ考慮すれば、基本給17万円に役職手当10万円を加算した27万円を月額基本給として割増賃金の額を算定し、同金額が13万円を上回る場合にはその差額を支払うとするのが相当である。」と判示して本件の固定残業代による割増賃金の支払いを認めました。

 (4-3)コメント

 本件では固定残業代13万円について給与40万円のうち基本給17万円と役職手当10万円を加算した27万円を通常の労働時間の賃金として13時間分の割増賃金として相当であること、この給与体系について説明し、労働条件通知書が交付されたことなどから、労基法37条の割増賃金の支払いとして有効であると判断しました。

 令和5年最高裁判例を前提としても賃金体系から相当な金額であり、労働者に説明及び労働条件通知書(又は就業規則、賃金規定等)により通知されていれば、時間外労働等の賃金として認められるということが確認されました。

 

■5.まとめ

 令和2年最高裁判例、令和5年最高裁判例はいずれも特定の手当について労働基準法37条の割増賃金の支払いとしては認められないとしましたが、これらはいずれも実際の賃金体系から不均衡一定額が残業代に割り当てられたものであり、会社側が時間外労働等の賃金を発生させない意図がうかがわれるものでした。これは労働基準法37条が、本来長時間勤務を抑制しようとしている主旨を潜脱するものといえます。

 一方、固定残業代自体は草野裁判官が述べたように、経済合理性があるものであり、本来の主旨に合致している限り労働基準法37条の割増賃金の支払いとして認められることもまた事実です。令和5年9月の名古屋高裁の裁判例は固定残業代を適切に採用した事例といえ参考になるのではないかと思います。

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水野健司特許法律事務所

弁護士 水野 健司

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