[業務案内]パワハラ・セクハラ、不当解雇、懲戒処分等の労働問題 (名古屋の弁護士水野健司 2024年
<目次>
■1.はじめに ~強い立場を利用した不正義・不合理な行為が起きやすい
■2.パワハラの類型
(2-1)暴行・脅迫
(2-2)言葉
(2-3)無視・人間関係からの切り離し
(2-4)嫌がらせ・過小な業務指示
(2-5)退職勧奨
■3.セクハラに関する問題
(3-1)拒否しにくい心理
(3-2)事実を修正して解釈しようとする心理
(3-3)立場の違いがポイント
■4.不当解雇に関する問題
(4-1)不当解雇の判断基準
(4-2)不当解雇となった場合の法律関係
■5.不当な懲戒処分・人事異動、残業代
(5-1)不当な懲戒処分・人事異動の判断基準
(5-2)不当とされた場合の法律関係
(5-3)残業代
■6.取締役(役員)の解任に関する問題
(6-1)解任の正当な理由」
(6-2)不当な解任とされた場合の法律関係
■7.ご準備いただきたいもの
(7-1)メール、録音、メモ等行為を証明する証拠
(7-2)労働契約書、労働条件通知書、就業規則・賃金規定等労働条件に関する書類
(7-3)解雇理由通知、懲戒処分通知、人事異動の辞令等会社の措置・処分に関する書類
(7-4)診断書・診療録、障害認定に関する書類等損害を証明する書類
■8.相談後の流れ
(8-1)交渉
(8-2)労働審判
(8-3)訴訟
<内容>
■1.はじめに ~強い立場を利用した不正義・不合理な行為が起きやすい
労働関係では、会社に指揮・命令権があり、賃金を支払うことから構造的に強い立場にあるため、従業員は会社側の不合理な措置や処分を受けてしまいがちで、しかもそれら会社の行為について不服を申し出ることが難しい場合が珍しくありません。
また社内で自らの立場が弱くなると、上司だけでなく同僚など他の従業員との関係でも敵対的になってしまったり、無視されたりして社内で孤立する事態となることもあります。
そして、一旦社内で孤立してしまうと、退職に向けた圧力を感じて自ら退職を申し出てしまったりすることもあります。
当事務所では、会社から不当な嫌がらせを受け、社内で厳しい立場に立たされている従業員や取締役(役員)の方からていねいに経緯をお聞きして、会社の不合理・不正義な措置・処分に厳しく対抗していきます。
■2.パワハラの類型
(2-1)暴行・脅迫
業務を適正に遂行していない等の理由で顔面や身体を殴打したり、身体や財産に損害を与えるなどと告げるような場合は、刑事法上も暴行・脅迫となり得るものであり、民事法上も不法行為となる場合が多いと考えられます。
会社の事務所内では密室となり、第三者が介在しにくいため、暴行や脅迫といった違法性の高いハラスメント行為が行われることもあり、それらの行為により治療費や精神的損害が発生します。
このような強い違法行為が日常的になされると、心身にも不調をきたし、回復が難しくなる場合もあり、また心理的に隷属状態に置かれ、抜け出すのが困難なケースもあるため、どのような形であってもできる限り早期に外部機関にご相談いただくことが重要です。
(2-2)言葉
言葉により名誉権・名誉感情を傷つける行為は、人格権に対する攻撃として不法行為が成立する場合があります。
この場合、具体的にどのような文言であったのかが重要になります。典型的には、給料泥棒など業務内容が賃金に見合っていないことを指摘するもの、従業員を昆虫や動物に例えたりして、名誉感情を傷つけるものがあります。
もっとも言葉が厳しくても、それが上司として指導・教育の範囲として相当な内容であれば、業務の一環としてなされたものといえるため、不法行為が成立することはありません。
(2-3)無視・人間関係からの切り離し
特定の従業員を人間関係から切り離して無視するような措置が組織的に行われれば、退職に向けた嫌がらせであると評価できることもあり、行為態様によっては不法行為が成立する場合もあるでしょう。
もっとも、挨拶しても返事がない、声を掛けても無視されるといった行為態様は立証するのが難しい場合もあり、特定の個人間でのことであれば個別の人間関係の問題として会社のパワハラを主張するのが難しくなると考えられます。
例えば、特定の従業員の机を遠く離れた場所に置いたり、メーリングリストから意図的に外されているといった事情であれば証拠が残りやすく、嫌がらせの意図が立証しやすくなるでしょう。
いずれにしても、極端に悪質な場合でない限り、無視や人間関係の切り離しだけで不法行為を主張・立証していくのは困難な場合が多いと考えられ、他のハラスメント行為と併せて主張することが多くなると考えられます。
(2-4)嫌がらせ・過小な業務指示
退職に向けた嫌がらせは様々なものが考えられますが、例えば、単純な作業のみを要求したり、あまり意味のない作業をあえてやらせたりすることが考えられます。
これも他のハラスメント行為と併せて主張していくことが多いでしょう。
(2-5)退職勧奨
退職勧奨は、会社から従業員に対して退職の打診をする行為であり、それ自体は正当な業務行為であり、不法行為となるわけではありません。
もっとも、従業員の自由な意思決定が期待できないような態様でなされれば、相当な範囲を逸脱して違法となることがあります。
例えば、個室で長時間にわたり多数で威圧的に退職を求めたり、退職しない意思を明確にしているのに執拗に説得を繰り返したり、退職しなければ解雇するなどと二者択一で会社に残る可能性がないと誤信させたりすれば、従業員は退職しないという自由な意思決定ができなくなると考えられるため、違法な退職勧奨として不法行為が成立する可能性があります。
違法な退職勧奨も嫌がらせをして退職を促すという行為の一つとして捉えることができるため、他のハラスメント行為と併せて主張することが多くなると考えられます。
■3.セクハラに関する問題
(3-1)拒否しにくい心理
セクハラは会社の業務として行われることはないため、パワハラのように指導・教育との区別が問題になることはありません。
しかし、セクハラで最も典型的な反論は、行為について同意していたというもので、実際にも明確に拒否をしていないケースが多いということが問題になります。
被害者としては、明確に嫌だという意思を表明していなかったことが負い目となり、セクハラの被害を主張できない場合が少なくないようです。
会社内の地位や人間関係から拒否してしまえば、自らが不利な立場に追いやられるという不安があるのは当然のことですから、明確に拒否していなかったからといってセクハラの主張を控える必要はありません。
(3-2)事実を修正して解釈しようとする心理
また実際にセクハラの被害にあい、嫌悪感を抱きながらも自らの感情を修正して行為を好意的に考えたりして感情を修正してしまうようなことが起きる場合があるとされています。
(3-3)立場の違いがポイント
セクハラの被害者が陥る心理状態は、米国を中心に研究が進んでおり、日本の裁判実務でも採用されてきています。
会社内で上司にしても同僚にしても立場の違いから明確に拒否できないケースは、当然に起こり得るものであり、第三者から見ても理解できるものです。
表面的に相手の感情に合わせて行為することが不自然ではなく、会社の立場の違いがあることが重要なポイントとなります。
■4.不当解雇に関する問題
(4-1)不当解雇の判断基準
解雇には普通解雇と懲戒解雇がありますが、いずれの場合でも解雇事由の有無と解雇が相当かという2段階で問題になります。
まずは、就業規則で規定されている解雇事由があることが必要であり、解雇事由がなければ解雇は無効です。次に、解雇が相当か否かという点が問題になります。この点、労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定しています。
解雇は処分として最も重いものになるため、重大な違反事由が必要であり、解雇事由があるとしてもできる限り解雇を回避する措置を採った上でやむを得ない場合に限り、認められると考えた方がよいでしょう。
(4-2)不当解雇となった場合の法律関係
解雇に合理的理由がない等の理由で無効となる場合、従業員の労働契約は継続している前提となります。そのため支払われなかった分の賃金の支払い義務があることに加えて、従業員は労働契約に従って勤務しなければならなくなります。
ただし、解雇が無効になるとしても合意で労働契約を終了させることを前提に解決金を支払う内容の和解が成立することも少なくありません。
従業員側が、会社に戻りたいと考えても会社側が受け入れられない場合は、金銭で解決するのが現実的であるといえます。
■5.不当な懲戒処分・人事異動、残業代
(5-1)不当な懲戒処分・人事異動の判断基準
解雇まで至らなくても、降格・減俸、一時的な出勤停止などの処分を受けることがあり、この場合も懲戒事由の有無と処分の相当性で当該処分が有効といえるのかが争われることになります。
また人事異動についても、退職させる意図で遠隔地に異動命令を出す等、嫌がらせの意図が推測できるような場合は、命令が無効となる可能性があります。
この点、労働契約法15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と規定しています。
(5-2)不当とされた場合の法律関係
会社の人事異動や懲戒処分が不当であり、無効とされた場合は、その措置や処分はないものとして法律関係が継続することになります。
そのため異動命令に従う必要はなく、降格・減給がなかったものとして給与の差額分の支払いを求めることができます。
(5-3)残業代
タイムカード等で勤務時間が判明する場合で、時間外手当等の割増賃金が支払われていない場合は、差額について支払いを求めることができます。
トラック運転手やタクシー運転手では、非生産的な残業を防止するため、固定残業代が導入されている場合がありますが、実際の勤務実績から乖離した賃金の手当は、割増賃金の支払いとして認められない場合もあるため注意が必要です。
■6.取締役(役員)の解任に関する問題
(6-1)解任の正当な理由
株式会社の取締役は会社と委任関係にあり、株主総会の決議で解任することができます。この場合の解任事由としては、取締役としての適確性がないと考えられる場合とされています。例えば、心身の故障により職務の執行ができない場合や犯罪行為など重大な違法行為があれば、これにあたると考えられますが、その程度に至らない事由の場合は経営判断としての裁量権の範囲といえるか否かが問題になります。
(6-2)不当な解任とされた場合の法律関係
解任について正当な理由がない場合でも解任自体が無効となるわけではなく、会社法339条2項により、その元取締役は会社に対して損害賠償請求ができます。この場合の損害は取締役の残り任期に相当する報酬が目安であり、2年を超えたとしても2年分相当が目安となります。
■7.ご準備いただきたいもの
(7-1)メール、録音、メモ等行為を証明する証拠
パワハラ、セクハラ、退職勧奨、その他嫌がらせなどの行為について不法行為や働く環境整備の義務違反を主張する場合、上司や同僚の行為を特定する必要があるため、メールや録音があることが望ましいですが、これがない場合でもできる限り正確に行為を特定できるように日時、場所、言動の内容をメモなどで残しておくとよいでしょう。
(7-2)労働契約書、労働条件通知書、就業規則・賃金規定等労働条件に関する書類
労働契約書や就業規則など会社との権利関係に関する書類です。仮にこれらがない場合でも求人に関する書類で労働条件が判明する場合があります。
(7-3)解雇理由通知、懲戒処分通知、人事異動の辞令等会社の措置・処分に関する書類
解雇の無効などを主張する場合、会社が従業員のどの行為について就業規則上のどの条項にあたるとしているのかを把握する必要があります。そのために解雇理由や処分理由を明記した通知書面をご準備いただくことになります。
仮に解雇について根拠が明らかでないという場合は、事件受任後に会社側に処分の根拠となった行為と就業規則上の条項を特定してもらうよう会社に質問をすることになります。
(7-4)診断書・診療録、障害認定に関する書類等損害を証明する書類
パワハラなどの行為により心身に負担がかかると、うつ状態、適応障害などの精神疾患を罹患することは珍しいことではありません。この場合、診療所や病院の医師に診断書を書いてもらうことが考えられます。このような場合は、診断書や診療録で損害の立証を試みます。会社側の行為と精神疾患の発症時期が一致する場合は、行為により罹患したとの因果関係が認められやすくなります。
■8.相談後の流れ
(8-1)交渉
解雇事由が明らかにされていない場合や交渉で解決が見込める場合などは、交渉段階で当方の見解や質問を通知書として会社と交渉を行います。
(8-2)労働審判
交渉だけで解決が見込まれず、双方の主張に隔たりがある場合は、労働審判による解決を検討します。労働審判は労使が同じテーブルに着き、審判長の指揮で双方の言い分を聞きながら短期間での解決を目指す手続きであり、訴訟に比べて短期間で解決が得られるため、労働事件には有効な手続きです。
(8-3)訴訟
パワハラやセクハラで会社だけでなく、上司や同僚など個人も相手にして損害賠償を請求する場合は、労働審判ができないため、訴訟を提起することになります。この場合でも裁判所の指揮で話し合いがなされて多くの場合は和解により解決します。
〒460-0008
名古屋市中区栄2-2-17 名古屋情報センタービル7A
水野健司特許法律事務所
弁護士 水野 健司
電話(052)218-6790
FAX (052)218-6791